アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]


「これからあまり一緒にいれなくなるから、これ、持ってて……」

……ぽつりと、数年前、俺が彼女に言った言葉を、現在の彼女が震えた声で口にした。

「そう、言ったのに、三芳君……っ」


俺は、なんで彼女にマフラーをあげたんだっけ。彼女を安心させるためじゃなかったっけ。会えなくても気持ちは揺るがないと、そう決心したからじゃ、なかったっけ。

「志穂……ごめんっ」

俺は、志穂の腕を引っ張って、やっと彼女と向き合った。彼女の唇は、震えていた。

「……ごめん」

「ちょっと今ひどい顔してるから見ないで」

「志穂」

マフラーで泣きそうな顔を隠す志穂を見たら、なんだか胸がギュッと苦しくなった。

……俺たち、あの日から少しも動けていなかったんだ。

また、あの日の光景が脳裏に浮かんだ。

「……志穂、そのマフラー実はあんまし気に入って無かっただろ」

「えっ、なんで知ってんの」

「もっと女の子らしい色のが良かったって、あの時目が言ってた」

志穂は、口元をマフラーで隠しながら都合の悪そうな表情をしたが、すぐに泣きそうな顔に戻った。

「……でも、一番大切だよ。今まで自分で買った、どんなマフラーより……」

「……志穂」

「やっぱり、話しかけなきゃ良かったっ……どうせ三芳君は東京に行っちゃうのにっ……また受験のせいで、離れちゃう」

志穂が、みるみるうちに眉をハの字にして、苦しそうに目をそらした。

俺は、そんな彼女の口元にあるマフラーに、そっと指をかけた。

「……あの日も、こんな風に口元までマフラーを覆ってたから、できなかったんだ」

「え」

そう言ってから、俺は冷たく柔らかい唇に、そっとキスをした。

想像以上に冷たくて、触れたのかどうなのかよくわからなかった。

「これからあまり一緒にいれなくなるけど、でも、このマフラー、持ってて」

「え……」

「持ってて、ほしい」

そう言うと、志穂はぽかんとした顔のまま、ポロっとついに涙をこぼした。

「今度は、待ってていいの……? 三芳君を……」

彼女の震えた声での問いかけに、俺は抱きしめて答えた。必ず沢山会いに帰ってくる、と。



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