アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
色っぽい声で耳元で囁いて、彼が私のお腹に手を回した。
ピッタリと後ろからくっつかれて彼の体温が伝わると、指先の感覚が一気に鈍って指を切りそうになった。
「り、理人君、本当にっ」
「危ないから包丁置きな」
危ないのは理人君そのものだわ、と心の中で全力で突っ込んだが、耳にキスをされると、いよいよ本当に危ない気がして言われた通り包丁を置いた。すると、そのままソファーまで運ばれ、向かいあって座る形となった。
リモコンで電気をいつの間にか消して、小さな間接照明だけが部屋をオレンジ色に照らしている。
自然とこういうことをなんの罪悪感も無しに行えるようになってしまったのは、私もあなたも、大人になってしまったからだろうか。
珍しくタイミングよく、お互い恋人はいない。しかし、好きだとは言っていない。聞いてもいない。
それでもあなたは、こんな風に自然と私を抱く。
私もそれを、自然と受け入れてしまう。
だって、昔好きだった人に触れられて、嫌な訳が無いのだから。
『付き合ってもいないのにこんなことするなんてよくない』。
そんな正論でこの欲望を跳ね除けられるほど、私は強くないよ。
「星乃、最近よく寝れてる? 顔色悪い」
彼が、指で私の前髪を掬って、額にキスをした。
「はあ、ちょっと忙しくて最近食べるの忘れてて……」
「アホか、食え、ちゃんと」
「はあ、すみません……」
「自分のことを他人事のように感じてる時あるよな、お前って」
そう言って、彼は私の顎に指をかけて、だいぶ間を空けてからキスをする。
「んっ……理人く」
口を舌でこじ開けられて、吐息が時折声と同時に漏れる。
ラムの香りをずっと嗅いでいる時のように、頭の中が甘く痺れて行く。