手の届く距離
目を丸くする川原をおいて、自転車を漕ぎ出す。

「祥子さん!」

歩道を走れない原付を必死で引きずりながら追いかける川原を確認ながら、つかず離れずの距離を保って走る。

「祥子さんに鍛えられたんすよ!すぐに追いつく!」

「ガンバレー!」

負け犬の遠吠えだと思って、悠々と自転車を進めていたら、エンジン音がして原付に追い越される。

「あ、全然鍛えてるの関係ないし!」

慌てて追いかけるが、それが川原の罠だったらしい。

先回りして、待ち伏せしている川原に慌てて自転車のブレーキをかける。

「川原!危ないでしょう」

原付は道の端に立ててあり、身軽な川原が自転車のハンドルを掴む。

これでは前にも進めないし、下がることもできない。

「本気になったら、いくらでも捕まえられんすよ。覚悟してください」

真剣な顔にたじろぐ。

後輩の癖に、男の顔をするなんて、知らなかった。

意図しなくても身体が警戒する。

「祥子さん」

自転車にまたがったままの私の隣に川原が立つ。

理想の身長さは身長差15cmだった気がする。

私の身長が164cmなのは、何かの縁だろうか。

「やっと手が届いたんだから、逃げないでくださいよ」

見下ろされているけれど、情けなく垂れた眦は威圧感を与えない。

言った通り、起きている間にキスをしてくれるのだろうと降りてきた唇にきつく目を瞑る。

待っている瞬間は緊張する。

「祥子さんの嫌がることはしませんから」

覚悟して構えていたけれど、落ちてきたのは声だけ。

肩透かしを食らって、そっと目を開ける。

思わず握り締めていたハンドルから手を取られた。

「少しずつ俺に慣れてください。まずはココから」

手を持ち上げられて、指先に川原の唇が触れる。

「うわ、キザ」

「祥子さんが怖がるから」

言われて、自分の手が強張っていることに気付く。

「うっさい、そんなことない!行くよ」

女子力が上がってない言葉を連ねてしまう、かわいくない自分に呆れる。

後輩だと侮っていたけれど、川原は私のことを、ホントによく見ていてくれることに感心した。

少しずつかわいくなるから、まずは振り払わずにいられた手を、離さずに帰る術がないかを考えた。


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