手の届く距離

途中でさっき自分の元を離れたばかりの晴香さんたちに追いつき、「ども」とすれ違い様に声をかけた。

駆け足の俺たちに目を丸くしていたが、その姿もすぐに遠くなる。

なかなか足を止めない由香里から理由が聞けそうにないので、後ろにちらりと視線を向ける。

日常生活でいきなり鬼ごっこもないよな、と思ったが、同じように走ってくる男に気づく。

「由香里、なんか追いかけられることした?」

「した!だから一緒に撒いて!」

足を緩めることも振り向くこともなく、由香里は叫ぶ。

追いかけてくる男との距離はまだある。

少し迷って、体重を掛けて方向転換する。

「由香里、こっちきて」

体重は当然俺のほうが重い。

由香里をなんなく止めてデパートの中駆け込む。

「ちょっと、健太どこに行くの!」

「座れるとこ。隠れるなら人の中だけど、俺でかいから動いてると目立つんだよ」

エレベーターは密室になるから避ける。

エスカレーターも人が多くて駆け上れないのでダメ。

人の少ないデパートの階段を駆け上がり、別棟への連絡通路を渡ってまた階段で、今度は駆け下りる。

地下まで降りるとイートインスペースを併設している店に空席の有無を確認する。

席がなければ、もう一走り、と思ったが運よくすぐに入らせてもらえた。

思ったより広い店内で入り口からすぐに見えない席に案内されたのはさらによい。

すっかり温まった身体を椅子に落ち着け、向かいに倒れこむように座るゆかりを見やる。

どれだけ走っていたかわからないが、顔を伏せて息を整えている。

追手の姿を心配したが、こちらからも店の入り口は見えない。

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