君のココロの向こう側
『橘先生が熱出ちゃってね。本当に申し訳ないんだけど、明日までの資料、作ってもらえたり出来ないかしら』

「えっ……」



ちらりと隆太郎の方を見ると、不思議そうな顔をしている。

明日まで……ってことは、今すぐ帰らないと間に合わない。

だけど、園長にも橘先生にもいつもお世話になってるし……断れないよ。



「わかりました」

『本当⁉︎助かるわ!パソコンにデータ送っておくわね』

「はい。橘先生にお大事にとお伝えください」



電話を切り、隆太郎に向き直る。

そして、顔の前で手を合わせた。



「ごめん!仕事入っちゃったから、もう帰らなきゃ」

「こんな時間から大変だな」

「そうなの。同じクラスを受け持ってる先生が体調崩しちゃったみたいで、私が資料作らなきゃいけなくなったの」



お金を財布から抜き出し、机に置く。



魔法が解ける。

その前に、言いたいことがある。



「こんなこと言える立場じゃないけど……隆太郎が幸せそうでよかったよ」



巧く笑えたかな。

あの日より、もっと上手に。



「……さよなら」



振り返らずに、出口へと向かう。

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