キスの意味
思わず手を止めて、宮前さんを見つめる私。宮前さんも、私の視線を受けながら続ける。

「キャッチボール、してるよね?」

2回目の練習から、私も一緒に準備運動をして、キャッチボールも、誰かにいつも相手をしてもらっている。

「“脇腹モミモミ”って、何?なんでみんな、微妙に喜んでんの?」

一人一人の反応が個性的で、結構楽しいんですよ。宮前さんにも、やってあげましょうか?

「塚本さんと、手、繋いだよね?」

「っ!!・・・繋いでません!手なんか繋いでません!!」

私は、右手を大きく左右に振って否定する。

「・・・“手つなぎオニ”」

「っ!!・・・つなぎました」

「ほらみろ」という感じで、宮前さんは軽く顎を上げ、床の上に置いたダンボール箱の前にしゃがむ私を見下ろす。

「あの時は大変だったな。休み明けの月曜日も、まだ不機嫌で。見積書を打ってって頼んだら「急ぎ?」て冷たい声で一言だけ」

その時の恐怖を思い出したのか、宮前さんはキュッと眉根を寄せた。

「でも、所詮“オニごっこ”ですよ・・・」

私は小さな声で反論してみたが、宮前さんの冷たい視線に口をつぐむ。

「「割引券をもらったから」なんて嘘までついて、ドーナツを買って帰って、機嫌をとったんだよ。「疲れた時は、甘い物だよね」て村瀬さんが笑ってくれた時は、どれだけホッとしたか・・・」

その時の事を思い出すように、遠い目をして話す宮前さん。

「何だか、ご迷惑をおかけしたようですみません」

納得はいかないが、ペコッと頭を下げておく。

「いい大人が、何で“オニごっこ”で盛り上がってんの!?」

宮前さんに、もう一度冷たい視線を向けられた。

私は、小さくなって俯いた。
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