キスの意味
「もう、宮前さんのおしゃべり!」心の中で抗議する。

「私の事はいいんです!…塚本さん『一期一会』です!」

塚本さんに思わぬ返しをされて、自分でも意味不明だが、なんとなくそれっぽい、思いついた四字熟語を言いきった。

塚本さんは肩を竦めた。

「わかった。水野君の言った事、考えてみるよ。お疲れ」

いつものように片手を軽く挙げると、踵を返して歩き始めた。

「お先です!」

塚本さんの背中に声をかけると、私も駐車場に向かって歩き始める。

少し歩いて、ゆっくり後ろを振り向く。塚本さんの姿は、もう見えなかった。

その口調も、言葉も、いつもの穏やかな塚本さんのものだったのに、話しているうちに、だんだん落ち着かない気持ちになってきた。

温度・・・

例えて言うなら、さっきの塚本さんの言葉は、とても温度が低かった。

いつも塚本さんと話している時は、陽だまりにいるような、あったかい気持ちになれるのに・・・

< 173 / 427 >

この作品をシェア

pagetop