キスの意味
塚本さんの香りが、私の鼻をくすぐる。

爽やかなはずのその香りが、今は甘く感じる。

「これでしょ?」

塚本さんの声に、我に返る。

「はい?あ・・・はい、これです」

「他にも資料がいくつか入ってるから、覚えておいた方がいいよ」

シートをカチッカチッと開きながら、塚本さんは言う。

「・・・」

「水野君!?」

塚本さんの強めの呼びかけに、ハッとする。後ろを振り返りながら、みぎ斜め上に視線を上げ、塚本さんを見る。

私を見下ろす塚本さんと、バチっと目があってしまった。

目を逸らしたいのに、逸らせない。

ほんの一瞬だったと思うが、塚本さんと見つめあってしまった。

塚本さんが、フッと視線を逸らす。

「メモ、しなくていいの?」

「しっ、します!」

ようやく金縛りが解けたように、下を向き、デスクの端に置いたメモ帳を取る。

仕事中の私は、かなりのメモ魔だ。
常にメモ帳を持ち歩き、新たに教わった事、気になった事、いろんな事をちょこちょこメモしている。
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