眠れないのは君のせい
第1章 始まり

Take one

岡本(おかもと)満月(みつき)が、編集社を出たのは18時を過ぎていた。
外に出ると、頬に感じる11月の風はひんやりと気持ちが良がいい。

新しい企画の打ち合わせも、いつもより時間がかかった。
暖房の効いた部屋で数時間過ごしたせいで頭も少しのぼせているみたい。

若者に人気の街並みには、少しずつイルミネーションが燈り始めていた。

ショッピングストリートは、個性豊かな服を着た人々で溢れていた。
通りすぎる若い女性は、濃い青のカラーに襟と袖に黄色のアクセントの入った長丈のテーラードジャケット。ジャケットに合わせた青のスリムパンツ。ブーツはモカブラウンのハーフ。栗色のロングヘアーが歩くたびにふわりふわりと揺れていた。すれ違った男の子は赤いフードつきのコート。ジーンズの裾を折り曲げて、そこから覗く流行のカラーなのか黄色の靴下はキュートに見えた。

連なるショーウインドーの中のマネキン達もスタイルの良さと美しさを競い合う様に今年流行のファッションで誇らしげにポーズをとっている。

満月は、歩く足を止めて、そのウインドーに自分の姿を映してみた。
黒縁のメガネから覗いた瞳は洒落たレンガ作りの地面へと落ちていく。

満月の、狭い視野に映った足元は、踵の低いボアの付いた赤いハーフブーツ。
少しずつ視線を上げていくと黒のスリムなパンツが見えてきた。
トップスにはブーツとお揃いで、お気に入りの赤い大きなチェックのセーター。羽織ったジャケットは、襟が革で出来ている黒色のだぼっとしたもの。
それにしても、自分のセンスなんて地味なものだな、と満月は思った。
そして、寒色のLEDライトに照らされた化粧っ気のない顔は、いっそう蒼白くウインドーに映る。髪は、オシャレにワインカラーのショートなのに、大きな瞳を覆うような分厚いレンズのメガネはセンスがない。全身が映し出された姿は、太からず、痩せすぎず。
どこにでもいる人並みな自分を見て、マネキンに瞳を向けた。
現実はこんなものだと、今更ながら気持ちが落ち込んだ。

向きを変え、歩き出そうとしたその時に、いきなり目の前に飛び込んできた若い男の子と満月はぶつかった。手に持っていたA4サイズの茶色の封筒は、ぶつかった勢いで、手から放り出されて地面に落ちた。

「ごめんなさい」満月はぶつかったその男の子に頭を下げた。

その男の子は、怖い顔で舌打ちして通り過ぎていく。

「あ~あ、周りが見えるうちに早く帰えろうっと」

A4の茶封筒を拾うと大事そうに胸に抱えて交差点へと向かった。

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