kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「いらっしゃい」

 表通りから一本ずれた裏みちの一角。わたしが入るとマスターは白いフキンで丹念にポットを磨いていた。

「きょうもコーヒー?」

 昨年度から学校帰りにわたしはよくこの喫茶店に入る。五十平方メートルに広がる暖かい空間に。

 グレーのレンガが積まれた壁にはコーヒー豆のと木がペイントされて、一メートル置きにモノクロの写真が飾られている。壁にくっついた棚の上にはおしゃれなインテリアが乗り、下にはフック船長の右手みたいなかぎ針がいくつもくっついている。かぎ針にぶらさがるのは黒のマグカップ。マスターはいつも、左からに番目に並ぶ、底にユリの紋章が入ったマグカップでわたしにコーヒーを入れてくれる。

 わたしが座るのはだいたいカウンターのすぐ近くのテーブル。楕円形のテーブルとお揃いの椅子が座り心地がいいのと、気が向いたときに髭もじゃのマスターとおしゃべりができるから。

「それがちょっと暑くて。なんか冷たくて甘いものあるかな」

「じゃあコーヒーゼリーにバニラアイスでも乗っけてみる?」

「それお願い」
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