kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「人工知能? え、じゃあ彼女は…生身の人間じゃないの?」

 いまはチャットを一時停止している。

「あぁ、違う。パソコンの中でのみ生きている存在だ。ソフトウェアに14歳の少女の脳をプログラムしてある。この歳の子の人物像や趣味や関心ごとの統計を解析し、知能指数を合わせて彼女たちの答えそうなことを、その通りの口調で返信するように設定してあるんだ」

「すごい…」

 わたしはパソコンと会話していたのね。そして先生がなにかを開発していることは知っていたけれど…人工知能だったとは。

「でもコンピューター相手に、知能指数の設定ってどういうこと?」

「そうだな…じゃあ彼女に文学史の内容から、何か質問してみてくれ」

 先生は一時停止を解除して、わたしはまた彼女に話しかけた。

「じゃあリリーちゃん、メフィストフェレス、オフィーリア、 ロシナンテって聞いてなにを思い浮かべる?」

 またわたしの言葉が文字に起こされた後、”え? メフィスト…なにそれ、わかんない”と表示された。

「こうなるということだ」

 先生は再度、彼女を休ませた。

「リリーは”本と勉強が嫌いで、部活と学友の噂話が好きな一人っ子”。確かに彼女はコンピューターだから、解のある問いにはすべて答えられる。だけど設定に沿った範囲内でしか答えないようにしてあるんだ」

 そうか。14歳の女の子が“ゲーテの『ファウスト』で呼び出された悪魔、シェイクスピアの『ハムレット』に登場する美少女、セルバンデスの『ドンキホーテ』で主人公が乗る馬、を思い浮かべます”なんて答えたら、たしかに不自然だ。
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