kiss of lilyー先生との甘い関係ー
 テーブルに移った彼の視線が、再びわたしを捉える。

 彼の右手がわたしの頬にそっと触れた。指と爪が優しくわたしの頬をなぞる。そして顔が徐々に近づいてきたかと思うと、羽毛が触れるみたく唇がわたしの唇に重なった。

 時が、何十倍も遅く感じる…

 なのにわたしは目さえ瞑れなかった。瞬きもしていない。

 半年前に彼の講義を受けていたときは、わたしたちの距離は十メートル以上離れていた。研究室に出入りするようになって、直径五メートルの空間にいるようになった。ふたりで出掛けるときは、肩が触れくらいの距離にいた–––

 いま、彼は数センチしか離れていない距離にいる。そして彼の唇はわたしのそれに触れている…

 彼は一度その端正な顔を離した。


「好きだよ」


 そのあまりにストレートな彼の表現に、心臓が跳ね上がった。

 まっすぐと澄んだ目で見つめられ、彼はさらに一歩近づいた。

 彼が腕をわたしの腰に回すのと引き換えに、わたしはゆっくりと彼のシャツのボタンをなぞって右腕を伸ばした。左腕もそれに追わせ、彼の首に絡み付いた。

 再び顔が徐々に近づく…額と額、頬と頬が掠れる。
 
 もう一度キスをする直前に、震える声で気持ちを言葉にした。


「わたしも…あなたが好き」


 そう言うと、彼はわたしの身体を引き上げるように強く抱きしめ直した。

 その瞬間、唇が触れた。

 音を立てて少し離し、角度を変え、触れては離れる…胸が高鳴るのを止められない。


 時間が経つに連れて、それが段々甘噛みに変わっていた。彼が唇でわたしの下唇を挟む。わたしを抱きしめる腕の力は一層強まった。

 先ほどあれだけ近いと感じたこの距離が、いまは遠くてもどかしい。

 唇が徐々に開いてきた。そして一度開いて舌が触れ合うと、その行為が激しくなることに歯止めが利かなくなってきた。

 速度と湿度は増す一方だ。あとは互いにより相手を味わうことを試みる。舌を出しては入れ、絡めては吸い取る。急激に求め合ってから、寝室になだれ込んだ。
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