夫婦ですが何か?






ーーーーNEW YEAR'S DAYーーーー




「あけましておめでとうございます」



そう言って深々と頭を下げればなかなか立派な玄関で出迎えてくれた、いつもとは雰囲気変わるその人に微笑まれる。


そういつもはきっちりとしたスーツ姿の。



「あけましておめでとう。我が家の初嫁な千麻ちゃん」


「・・・・ほかにもご子息が?」


「いや、俺が記憶する限り茜が唯一の跡取り息子」



そう言ってにっこりと笑うのは義父で会社の社長である人。


さすがに元旦の昼間の自宅では私服らしい姿は新鮮で、いつもは多少ある緊張感もなく柔和な姿。



「でも残念。てっきり着物でも着てくれるかと思ってたのに」


「残念ながら持ち合わせておりません」


「あっ、じゃあ贈ろうか?」


「そんな高価な物いただけません」


「いいのいいの、俺が着飾った千麻ちゃんを見てみたいのと・・・・、後々茜も喜ぶ結果になるんじゃないかな?」


「・・・・」


「父さん・・・新年早々セクハラしないでくれない?」



一瞬の切り返しの戸惑い。


それを察してか隣にその身を置いていた彼が呆れた表情で本来私が口にする言葉を返した。


ああ、失敗。



「とにかくさ、家に入ってもいいんだよね?」


「勿論、ただ新婚をからかいたかっただけだし。雛華と芹ちゃんも来てるぞ」



そう言って奥を示してから促すように手を添えた姿に隣の彼がスッと動きを見せる。


そして私にも促すように背中に触れた手。


トンと軽く触れて、弾かれその手から逃げるようにその身を進めた。


靴を脱いでそれを並べて、ドクンドクンと強く反応する心臓が煩い。


必死に堪えながら顔を上げればうっかり絡んだ視線。


捉えた、困ったように微笑む彼の表情。





苦しい。




「・・・・あがらないので?」


「ん?あがるよ。自分家だもん」



私を見つめる姿に至って平常であるように声をかければ彼も応じてにっこりと返す。


靴を脱いで同じように板間に上がり私の隣に並び歩き出し、そうして特に会話もなくリビングである場所の扉を開けばお正月特有の匂い。


暖房機器の匂いとか、おせちやお雑煮の混ざったどこか居心地のいい。


一気に緊張感解けたタイミングに更に緊張感解ける存在を捉えて安堵した。


部屋のソファーで仲良さげに座り何かを離している雛華さんと芹さん。


そして思わず苦笑いの芹さんのマスク姿。


まぁ、微笑ましいのか。


絶賛つわり中の彼女の必須アイテムらしいそれに苦笑いで見つめていれば、こちらに気がついた彼女が目だけで笑みを現わし立ち上がり。


雛華さんもこちらに視線を移すとにっこりと微笑んだ。


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