夫婦ですが何か?
彼の問いかけに今までにこやかだった彼女が飲んでいたグラスをゆっくりテーブルに置くと、みるみる眉尻下げて今にも泣きそうな表情に切り替わるから焦ってしまう。
一体雛華さんと何があったのか。
自分の身も彼の隣に沈めると、それを待っていたかのように芹さんの嘆きが響き始める。
「雛華さん・・・最近まともに家にいないんです」
「ああ、今忙しい時期だしねぇ。ひーたんも愚痴りながら躍起になってるよ」
「そうなんですよぉ!!毎晩毎晩全然帰って来なくて!!待ちきれずに寝ちゃって朝起きると隣で寝てて、しかも朝は朝でまともに会話も出来ずに仕事行っちゃうしぃぃ。
見てください!!この日華の寂しそうな顔!!」
「うんうん、寂しいんだね。でもとりあえず日華は現状眠気のが勝ってそうな顔してるけど」
そんな彼の言葉に同調し、母親の腕の中なんとか意識を保っている日華が欠伸を一つ。
相変わらず無表情で感情を出さない姿は雛華さんによく似ていると感じる。
考えても見れば時間も時間。
子供には起きてるのが辛い時間だろうと、スッと立ち上がると彼女の腕の中の日華に手を伸ばす。
「眠いでしょう?あっちのベッドで寝ましょうか?」
そう促せば小さく頷いて私に手を伸ばした日華を抱き上げる。
同時に彼の膝で眠る愛娘にも視線を向けて、日華を置いたら翠姫もベッドに移動させようと思いながらその身を動かした。
ベッドに寝かしつければやはり限界だった日華はすぐにその目を閉じていく。
小さな寝息を確認すると夫に不満漏らす芹さんがエキサイトしているリビングにその身を戻し、それを微笑みながら頷き聞き入れている彼の腕から翠姫を抱き上げた。
「で、雛華さんさっきも酷いんです!!やっと電話繋がったかと思ったら意識も半分で、生返事で・・・」
「・・・・まぁ、ロスは深夜だろうからね」
ほぼ同時に彼と一緒に時計を見つめて時差計算。
さっきがいつかは知らないけれど日本との差は17時間。
日本時間より時間を遡る時刻は現状で早朝の5時半程なのか。
そりゃあ雛華さんも眠かっただろうと、どこか同情的に彼と視線を絡めての苦笑い。
でも彼女からすれば愛妻の寂しさを理解して気を振り絞ってでもかまってほしかったのだろう。
「もう、なんか寂しくて居たたまれなくて・・・冷蔵庫にあったお酒でヤケ酒したら余計に寂しくてっ・・・・
なんか・・・茜さんに会いたくなって・・・」
聞きながら翠姫を寝室に連れて行くべく歩きだしていた瞬間。
聞き流せなかった彼女の危険発言に視線が逆戻り。