スケッチブックに描くもの
「一緒に帰ろう。着替えるから待ってて」
「あ、うん」

 コートで待っているのも何だか恥ずかしいので、コートから出て涼を待つ。
 通り過ぎる部員達、みんなが知ってるように見える。見ていられなくて空を見上げた。何もない空を見てるのも限界とコートの入り口を見る。ああ、あの日の涼みたい。その場所に立っている。ただあの日のような不機嫌な顔ではなく笑顔で。軽く手をあげようとすると、後ろから来た先輩に早く行けと涼は頭を撫でられてる。意外に可愛がられてるし。

「待った。ごめん。先輩に絡まれて」

 と、後ろを見る。私の腕をとり急ぎ足で門を出ようとする。

「絡まれたってそんなに?」
「いや、屋上で何してたんだって。何もないじゃあ、納得してくれなくて」

 自分が腕を回してきたくせに! 何もないで済ませようとしてたのか。

「私も友達に質問攻めにあったよ!」
「いや、ちょっとやり過ぎた。ごめん」

 手を合わせて謝ってる。まあ、いいんだけど。って、ちょっとなの?

「あのさあ、涼って、その」

 手が早いの? なんて聞けないし。

「いや、いい」
「でも、良かった。マジで部長だと思ってたから」
「なんでみんなもそう思うの?」
「え? だって部長としか話してないし」

 なぜ、そう見えるんだろう。

「あれは、話ではなくて、苦情をいちいち言われてたんだけど」
「でも、アリス他の部員と話してないし。あ、俺なんて話かけたら、部長に途中で入られたし」
「いや、あれは部長としての注意でしょ? 話しかけるタイミング探してたんだけど、部長目が厳しくて、困ってたんだよ」

 本当は初日から話しかけたかったのに。

「でも、テニス部にいてビックリしたよ」
「私なんか先生に頼んで、佐々木部長に文句言われてコート入ったのに涼がいなかったから、どうしようかと思った。やめるなんて言える雰囲気じゃないし」

 涼が軽く笑う。

「笑い事じゃない。こっちは必死だったんだから。一年生の教室行かないから二年生かと思ってテニス部に行ったのに」
「ごめん。ごめん。あの日は登校初日だから職員室行かないといけなくて。なのに、興味があったからテニスコート覗いたら、津島先輩に絡まれて試合してたら時間くっちゃって、学校の中わかんないから急でたし」

 それであんなに早くにいなくなったんだ。

「でも、凄い時期に引越しだね?」

 入学して一週間ぐらいしか経ってないのに。

「ああ、親父がな。じいちゃん倒れたから、実家継ぐんで慌ててこっちに引越したんだ」
「大丈夫なの? おじいさん?」

 倒れて継ぐって。

「あ、ああ。それがさあ、もうでっち上げ? みたいな感じだったんだよ。大したことないのに大騒ぎして」
「そうなんだ」

 でっち上げ? ってなんなんだろう? まあ、大したことないならいいか。

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