不純な理由で近づきました。



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「ありがとうございましたぁ」



どこか甘いというか、媚びを感じる声を後ろに聞きながら、わたしと兄さんはお店を出た。



はぁ……今の心境を答えるとしたら


『疲れた』


この一言に尽きる。



考えてもみてほしい。


兄さんはそれなりに、いや、普通にそこら辺のヘタなモデルよりも顔が整っている。


つまりはイケメン。つまりはモテる。


そんな人と歩いている平凡を通り越して地味なわたし。


えぇ、お店に入った瞬間はもう空気のようでしたよ。


何せ存在感抜群の兄さんが隣にいましたから。


そりゃわたしの姿なんか見えないわ。


そのまま平和的にさっさと決めてさっさと買ってさっさと帰ればいいものを。


兄さんがそれを許してくれるわけもなく。


そろそろと気づかれないように離れようとすれば腕を掴まれ。



「六花のメガネは、俺が決めてやるなっ」



なんて弾んだ声と甘い笑顔、雰囲気で言われて。


お店の、またはお客さん(女の人限定)から嫉妬の視線を受けたのは言うまでもない。


なんとか兄さんの長いメガネ選びを耐え、女性の視線を我慢して。


根こそぎ精神力を奪われながらも、お店を出ることができた。



「あー、やっぱあっちのメガネのがよかったんじゃ」


「無理。もう耐えられない。これでいい」



というかこれがいい。


兄さんが選ぶのってどれもピンクとか水色とか、そういうのばっかりなんだもん。


普通の黒ぶちの地味なやつで十分なのに。


これでも結構譲歩した方なんだ。



「でも……」


「もう買っちゃったんだから文句言わないの」


「はいはい」



仕方ない、という風に肩をすくめる兄さんの姿が目に入った。








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