水平線の彼方に(下)
Act.5 疑問
…あの日は、お姉ちゃんもきっとどうかしてたと思う。

台風が近づき絶好の波乗り日ではあったけど、素人にはとても、乗りこなせるような高さではなかった。
なのに…

「お姉ちゃん、どこ行くの?」

サーフボードを手に、ボディスーツを着た姉に声をかけた。

「海よ。決まってるでしょ!」

怒ったような言い方だった。

「波高いよ⁉︎」

風も吹き始めて、天気は悪くなる一方だった。けれど、姉は構わなかった。

「だから行くのよ!」

半ば強引に、子供の心配をはねつけるようにして出かけて行った……。


(今思えば、あの時、私がもっと引き止めていたらーー)

そんな思いを引きずって今日まで来た。
でも、それを考えたくなくて、思いをすり替えた。

お姉ちゃんがあんな行動を取ったのは、あの日、何かあったからだと…。
あの人(お兄ちゃん)と、何かあったからだと…。



あの日とは違う、穏やかな風が吹く朝のビーチで、私は疑問をぶつけようとしてた。
黙ったままお兄ちゃんは、複雑な表情を浮かべてた。

「…教えて欲しいの…あの事故の二日前、お姉ちゃんと何があったのか」

きゅっと唇を噛み締めた。
何を聞いても驚かない。そんな覚悟があった。でも……

「…ちょっと外すね…」

逃げようとする彼女の手を取って止めた。
怯えるように振り向く人に向かって、お兄ちゃんが声を発した。

「逃げるな」

困ったように声の主を見た。彼女には関係のない話。でも、お兄ちゃんは聞いてて欲しかったんだと思う。

戸惑いながらもその場に残った。
お兄ちゃんは、そんな彼女の手を握ったまま振り向いた。
その顔は、紛れもなく、あの頃のお兄ちゃんのままだったーーー。
< 16 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop