水平線の彼方に(下)
Act.2 初恋の人
沖縄の夏は暑い。
年々湿度が高く、じと…とする嫌な暑さの日が増えてる気がする。
スコールが降った後も、涼しくなるのは一瞬だけで、返って蒸し暑くなってくる。
なのに、切ってしまった髪は結ぶこともできない…。ベタベタと首にくっつき、気持ち悪くてしようがない。
そんなイライラ感を募らせながら、私の夏休みはスタートした…。


「綺良(きら)、テル伯母さんが夏休み中、また仕事手伝って欲しいって言ってきたわよ」

夏休みに入って三日目の朝、ママから言われた。

「えーっ…またぁ…?」

冷蔵庫の扉を開け、冷たい水を取り出す。背中を向けたままの格好で、ママの話を聞いた。

「バイト代弾むから是非ともお願いって…」


テル伯母さんは母の姉で、市外の丘陵地に住んでる。
普段は一人で花や観葉植物の苗物を扱う仕事をしてるけど、夏場が一番の稼ぎ時らしく、去年から私をバイトとして雇ってた。

「仕方ないなぁ…もう…」

口ではそう言いながらも、心の中は弾む。

伯母さんの所へ行けば、口うるさいママのお説教を聞かずに済む。
それに、運が良ければ、また “あの人” に会える。

「バイトするって言っといて。明日から行く」

鼻歌交じりにキッチンを出る。今年はもうお呼びがかからないと思ってたから、ほんとは嬉しい。
部屋に戻り、着々と準備開始。やっと楽しくなってきた。


「そうそう、これ持って行かなくちゃ…」

机の上に飾ってある写真。
生きていた頃の姉が、彼氏と一緒に写ってるもの。
…四年前から、私の大事な宝物だ。

「あーあ、やっぱり去年一緒に写真撮っとけば良かったかなぁ…」

写真を眺めながらの独り言。
だけど、去年は何だか恥ずかしくて、あの人の隣に立つこともできなかった…。

「今年は来るかどうか分かんないのに…バカだったなぁ…」

今更後悔しても遅い。
あの人は今、沖縄から遠く離れた本州で生活してるんだから。

「結局、初恋は実らずか…」

ガッカリしても諦めきれず、一応その写真をバッグに押し込んだ。
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