倦怠期です!
洗った灰皿を応接室に置いた私は、トイレへ行って顔を洗った。
泣くとコンタクトつけてるからか、目がゴロゴロするんだよねぇ。
目・・ちょっと赤いかな。
泣いてたって気づかれるかな。
大丈夫だよね、と自分に言い聞かせながらトイレを出たとき、有澤さんと小沢さんが歩いてくるのが見えた。

ジャケットを着て、カバンを持ってる二人に、私は「いってらっしゃい」と声をかけると、小沢さんが「おや?」という顔で私を見た。

「すずちゃん、どーした?もしかして泣いてたのか?」
「えっ!?えっと、コンタクト、落としちゃって・・・」
「うわ。マジで?探そうか?」
「ううんっ!!もう見つけたので大丈夫!」
「あ、そう」
「よかったな」と言った有澤さんには、全部お見通しのようだ。

そりゃそうだよね。
中元課長と一緒に応接室に行ったところも見られたし。

私はいろんな意味を込めて有澤さんに微笑みながら、一言「うん」と言った。






「すず、悪い。おまえを送るつもりだったが、今から出かけないといけないんだ」
「えぇ!?いや、別にいいよ。私一人でも帰れる・・・」
「じゃー俺がすず送るわー」
「ぎゃっ!い、因幡さん?突然しゃしゃり出てこないで下さいよっ。ビックリするでしょ?」
「わりぃ」と言ってる割には、全然悪びれてない感じでニマニマ笑っていた因幡さんは、急に真顔になった。

そのギャップに、私はなぜかドキッとしながら、因幡さんを仰ぎ見た。

「えっと・・あの、ホント。送ってもらわなくても大丈夫ですから」
「送るって言ってんだろ」

どうやら因幡さんは、お父さんのことを知ってるみたいだ。
中元課長が話したのかな。それとも有澤さんが・・・ま、どっちでもいいけど。

でも「じゃ、因幡さん。こいつのこと、頼みます」と言った有澤さんの声は、本当に渋々って感じだったし、カッコいいサル顔は、睨みきかせてるようにも見える。
その矛先は・・・因幡さん?なんで??

「おう。おまえも接待大変だなぁ」
「顧客と“忘年会”っすよ。ったく、こんな時に・・・おいすず!」
「わぅ、はいっ?」
「明日は俺が送るからな」
「あぁ・・・」

「うん」と返事をしておかないと、帰してもらえないような気がした。
正式に断るのは、明日の帰り時でいっか。






「で?何があった」
「・・・あれ?課長から聞いてないんですか?」
「聞いてないけどよ、朝一で課長に“話したいことがある”と言って、応接室にこもるとくれば、何かあると思うのが当たり前だろーが」
「あああぁ、なるほどぉ」
「仕事辞めるのか」
「は?」

私はつい、運転している因幡さんの横顔を見た。

「辞表、出したのか?」
「出してませんよ!それに仕事は辞めません!」と力強く否定した私は、最後にボソッと「まだ」とつけ足した。

因幡さんはククッと笑うと「あ、そ」と軽く言った。
その雰囲気に押される形で、私は今朝、中元課長と話した内容を、因幡さんに言った。

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