倦怠期です!
「・・・櫛?それに“札幌雪まつり”の絵葉書セットって・・・なにこれ。あの人、お金ないくせに、雪まつり観に札幌まで行ったの?!」とあきれ口調で言う私の向かいで、有澤さんはブッとふき出してウケている。

「もう。お父さんって昔っからプレゼントのセンスないんだから・・・。でも、この櫛きれい・・・ふーん、つげ櫛って言うんだ。ってこれ、京都で買ったの!?もうお父さんって・・・うぅ、お金ないくせ、に・・・なに考えて・・・ううぅ・・・」

あきれたと思ったら、妙に感激して。
やっぱり私、酔ってるのかなぁ。
だから涙が止まらないのかな・・・。

「実はさ、それからお父さんと二人で一杯飲んだ。因幡さんには止めとけって言われたんだが」
「あ、そ。うぅ」
「おまえやお母さんたちには迷惑かけた、金せびることは絶対しないし、もう会わないって。それから、おまえが元気そうにしてるって分かっただけで、よかったって言ってたぞ」
「・・ありがと」

それは、有澤さんがさりげなく手渡してくれたハンカチだけじゃなくて、お父さんと話してくれたことに対するお礼も兼ねていると、有澤さんは分かってくれた。

「あとお父さん、カノジョいるってよ」
「・・・えっ!?」

私はピタッと泣き止むと、涙目で有澤さんを見た。
有澤さんはサル顔を二カッとさせると、「今一緒に住んでるってさ」と言った。

「あ・・・あ、そぅ」
「カノジョは借金のこと知ってるって。一緒に返していくってさ。ちなみに、そのカノジョが櫛選んだそうだ」
「・・・それ聞いて妙に納得っていうか、安心したっていうか・・・。彼女さん、いくつなんだろ」と、私は櫛を見ながらつぶやいた。

「そこまで聞いてないわ。まあでも、おまえのお姉ちゃんよか年上やろ」
「ぜひそうであってほしいです!」

有澤さんと私は数秒見つめ合った後、クスクス笑った。

「とにかく、お父さんは元気にしてる。お母さんとお姉さんにも言っとけよ」
「うん。有澤さん、いろいろありがとう」
「ええって。俺もお父さんに挨拶できたし、お父さんからおまえのことよろしくって託されたしな」
「へ?託されたって・・・?」
「こっちの話。じゃー仕切り直しに。またかんぱーい」
「・・・乾杯!」

それを機に、私たちはまたいつもどおりにしゃべって笑って、食べて飲んで、楽しいひと時を過ごした。




「あー。チューハイ2杯で酔ったかなぁ。すっごくいい気分!」

私って、アルコール入ると、気分が高揚して陽気になるみたい。
今がすごく楽しくて、ヘラヘラと緩み笑いしている自分を、高みで見物しているような気分。
でも意識はしっかりしてて・・・不思議だー。

「大丈夫か?」
「大丈夫!有澤さん、ごちそうさまでしたー。とっても楽しかった。素敵な誕生日プレゼント、どうもありがとう」
「すず」
「なぁに?」と私は言いながら、隣の有澤さんを仰ぎ見た。

「これからうちに来ないか」
「・・・え」

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