倦怠期です!
「・・・極道の組長・青木龍に拾われた、貧乏大学生の有田仁・・・」
「“ジン”じゃなくて、“ヒトシ”って読むの」
「へぇ、って感心しとる場合やないやろ、俺!」

と夫はなぜか、自分でボケて、自分にツッコミ入れている。
そうでもしないと、自分の世界が崩壊してしまうとでも思っているのかしら。
今の夫は少々自虐気味に見える。

「大体、“おまえはもう、俺のもの”ってタイトル、なんやねんっ!ケンシロウのキメ台詞そっくりじゃねーか!」
「こういうセリフ言われると、胸がキュンキュンするの!」
「てか、なんで俺がウケなんだよ。どう考えても青龍さんの方がウケだろ!」
「似せてるのは名前だけだもん」
「おい。まさか青龍さんも知ってんのか!?」
「さあ。私は言ってないけど。他人に暴露したのは、あなたが初めてだし」

できれば熱が冷めるまで隠し通しておきたかった、密かな「趣味」なんですけど・・・うぅ。

「なんで極道組長が青龍さんで、貧乏大学生が俺?しかも俺はウケで、青龍さんがセメ・・・」
「だから似せてるのは名前だけだって・・・」
「そこはもうええ!なんでおまえは野郎同士の恋バナ書いてんだよ!」
「ボーイズラブと言って!」
「意味同じじゃん」と夫は言うと、顔を上向かせて・・・クスクス笑いだした。

「まさかおまえに・・・こんな趣味があったとはなぁ」
「いやその・・・。最初はね、ボーイズラブのドラマCDを観るだけだったんだけど、そのうち頭の中でいろんなシチュエーションが渦巻いてきて。だったら書いてみようかなーって」
「せめて男女の恋愛書けや!」
「だって・・・これ、私の脳内ファンタジーだし。私的にありえない妄想を形にするのが快感なのよ!」
「ったく」と夫は言うと、フゥと息を吐き出した。

「おまえの脳内、どんだけ荒れてんだよ」
「そ、かな」

・・・なんか今、隣に座っている夫と二人っきりだと、急に意識してしまった。
ごまかすようにへへっと笑う私に、夫が近づいてくる。
夫のイケメンなサル顔は、少し切ない感じに見えて・・・よくエッチしてるときに見せてくれる表情で、私の好きな表情の一つ・・・。

と思っていたら、唇同士が触れ合った。

20年経っても、この人にキスされると、胸がときめく・・・ていうか、他の男の人にキスされたことなんてないんだけど。
とにかく、私は20年経っても、夫に恋してる・・・。

仁さんが好き。

「・・・ああいうこと、言ってもらいたいんだ」
「は・・・」
「それに、ああいうことを、してほしいんだ・・・」
「う・・ぅ・・・」

キスの合間にそう夫に囁やかれた私は、思わず両腿をすり寄せた。
夫が私の両腕を軽く掴んで、椅子から立たせた。
でも椅子を引いた音で、私はハッと我に返る。

「なんや。俺に言えよ。遠慮せんでええ。おまえのリクエストには、ぜーんぶ応えてやる」
「な、なんてする気満々な・・・」
「相手がおまえやったらな。枯れることがない」と急くように言った夫は、私の手を引いて歩き出した。

でも私が「待って!」と言うと、ピタッと立ち止まってくれた。

「なんや」
「パソコン!このままにしておいて、子どもたちに見られたらやばいでしょ」と私が言うと、夫はククッと笑って「そやな」と言った。

それから夫は私のパソコンを素早くログアウトすると、私を寝室へ連れて行った。

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