偽フィアンセは次期社長!?
バカみたい。


課長が何であたしのボロアパートに上がるのさ。んなわけないじゃん。


て言うか、上がられても困るっつーの!!


「今日は、本当にありがとうございました」


静かに開いた運転席の窓の方に回り込んで、慌ててお礼を言う。


たった今まで、同じ空間に居たのに。


窓の向こうは、とても遠い世界に感じる。


「あ、もう一個忘れてる」


課長の手があたしの赤いポンチョに伸びる。


そうだ、さっきわしゃわしゃーーーっとされたから、フードが後ろに回ったまんまだった。


「あ、すみませ……」


チュッ



………………ん?


ちゅっ。


ちゅっ???



「はっはっは、餅みたいだと思ったら本当に餅みてーだな」


……思わず、頬に残る感触を確かめるように自分の手で触ってみる。


いや……今何しました?


ちゅって。
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