選択恋愛
あれから数日後。

いつも通りになっちゃんとコンビニへ寄り、学校行きのバス停へ歩いていた。

ふと目線を上げてみた。
するとー

「あれ、本谷君?」

目の前を本谷君らしき人が歩いていた。

「彩也、声掛けてみたら?」

「う、うん……本谷君!」

向こうは気付いていない様だ。
それとも人違いなのか…。

「…人違いかもよ?」

「いや、あれは確かに本谷でしょ?」

なっちゃんは自分の目に狂いは無いと確信して言った。

本谷君の後を追う形で階段を降りる私達。

すると階段を下り終わり、体の向きを変えた本谷君が歩きながらこちらを見た。

そして、目が合った瞬間に立ち止まり、こちらに戻ってきた。

「先輩じゃないすか!」

「も、本谷君!!」

覚えていてくれた。
それが凄く嬉しかった。

「うちの事忘れてると思ったよ。」

「先輩の事忘れるわけないっしょ!?」

自然と笑みが溢れる。
一緒に居る事が妙に安心する。

「あ、そう言えばうちの名前知らなかったよね?」

「あ、そうっすね!」

「うちの名前は富田。富田………。」

あれ、自分の名前が出てこない。

「富田……彩也…彩也だよ!」

「………それ本当に先輩の名前っすよね!?」

「ちゃんとうちの名前だよ!ねぇなっちゃん!」

「ん?あぁそうだね。」

あまりにも自分の名前が出てこなかったので、本谷君が突っ込みを入れてきた。

「本当っすか!?」

「何ならSNSアプリのアカウント教えようか?」

「え、いいんすか!」

「良いよー。」

SNSアプリを開き、QRコードを表示する。

「読み取って。」

「あ、了解っす。」

本谷君がQRコードを読み取ると私のSNSのアカウントのトップ画像と名前が出てきた。

「何決め顔してんすか!」

私のトップ画像は、プリンを食べた時に変顔していたところを撮影したもの。

それを見て本谷君が爆笑する。

「決め顔なんてしてないし!!」

そんな笑わなくてもいいじゃないか!!

「いや、してるしてる!!」

未だに爆笑する本谷君。

「失礼なっ!」

ムッとした顔で背の高い本谷君の顔を見上げる。

「すんません!んじゃ俺このバス乗るんで!」

「あ、うん。」

「あとでトーク飛ばしますから!」

笑いながら謝り、バスに行くと言って去って行った。

「謝る気さらさら無いだろ!」

さらにムッとした顔をした。

「怒ってるつもりだろうけど、口元…かなり緩んでるよ。」

なっちゃんにはバレバレだった。

「バレたか。」

本谷君は覚えていてくれた。
名前を教えられた。
連絡先も交換出来た。

これ以上嬉しい事は無かった。

今日一日、素敵な事の始まりの様な気がした。

今日の青空は雲ひとつなく澄んでいる。


< 6 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop