蜀宮廷日記
二人はそれからも2、3回馬で遠乗りしたりした。

そんな遠乗りの帰り道関興の屋敷の前に来た時のことである。

「じゃあ、また」


「次もまた参りたいものだ。きっと文を届ける。」


名残惜しい・・・。
もう少し一緒にいたい。

そんな思いを抱きつつも、二人が帰ろうとした、その時であった。

「あら、安国様今晩は。」


背後から女性の声が


「しゅ、春蘭殿・・・。」


関興は暗く顔を即座に伏せた。そこには、確かに人目をひく美人ではあるが、どことなく冷たい印象を与える笑みを浮かべた女性が一人。


「あら安国様、こちらは?」


「知り合いの真由殿だ。」


「あーら、初めまして。私安国様の『許嫁』の李春蘭と申します。あなたかしら、最近安国様の周りに付きまとう小娘は!」


「し、失礼します。」

真由は走り去った。


「ま、真由殿。」


関興は走り出そうとするが、何故かに足は動かなかった。


「ホホホ失礼ね、あの娘!」


春蘭は勝ち誇った笑いを浮かべていた。


真由は、ショックだった。


“どうして?”

“あの人は誰?”

“私は何してるんだろう”

真由はただひたすら走りたかった。泣きじゃくりながら、走った。彼女の愛馬もそれを察してか力強く、だが全力ではなく優しく走った・・・。


彼女が屋敷についた時、馬超は外で槍の稽古をしていた。


見えないくらい、速い槍先。まさに神業であった。


そこへ、真由が帰って来た。


「ま、真由・・・・。」

彼はいつもと違う真由の様子を感じていた。
だが、話しかけられなかった・・・。

真由は、一人自室に籠り鍵をしめた。

一滴、二滴、


涙がこぼれ落ちた・・・。


彼女はその晩しばらく泣いていた・・・。
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