GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
「わたしの意見を聞いても仕方ないでしょ」

 美奈子は思わず肩をそびやかした。と言っても電話の向こうには見えるはずもなかったけれども。

「あなたの言ったとおり、決めるのは本人だとわたしも思うし」
「君、クールだね」

 梅宮は感心したように言った。

「会って話せないかな」
「何を?」
「琴子のこと」
「お断りよ」

 美奈子はそう答えるなり、通話オフのボタンを押した。ずいぶんと長く、話を切り上げるタイミングを逸してしまっていた。

 子機を居間に戻しに行こうとしたら、すぐまたコール音が鳴り始めた。
 通話ボタンを押して、耳に当てる。

「いきなり切るなんてひどいよ」
「もう、話すことないもの」
「琴子のことは、教えてくれないの?」
「あの家の雰囲気ぐらい、電話かけてわかったでしょ?」
「あのうちの母親が男からの電話には敵意を剥き出しにして応対して娘には一切取り次がないとか?」

 梅宮はそう聞き返した。

「それとも、あの人、君が電話してもあんな調子? つっけんどんなのが性格なのかな? 母と娘なのに、ずいぶん違うよね。琴子も大人になったらあんな風になるのかな?」
「なるわけないでしょ」
「やけに自信ありげだね」
「……梅宮さん」

 声の調子を少し押さえて、美奈子は言った。

「あなたと話していると、なぜだかわたし、不愉快になってくるの。最初は琴子のライバルだからだろうと思ってたんだけど、どうもそうじゃないみたい。あなたの言葉の調子が、いちいちひっかかるのよね。こういうの、性格が合わないっていうのだと思うわ。金輪際もう電話を掛けてこないでくれると嬉しいのだけれど」
「残念だな、それは。おれは君のことが気に入ったのに」

 そう言いながらも、梅宮の声に落胆の色はない。

「けど、また電話するよ。決めるのはおれだから」
「しつこい男は嫌われるわよ」
「もう嫌われてるのなら、その脅しは効力ないよ。じゃ」

 電話の向こうで梅宮が微かに笑った気配がした。
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