GOING UNDER(ゴーイングアンダー)

 何のお話でしょう。どうぞ言ってください。用件をお伺いして本人に伝えておきますから。美奈子に何を聞けばいいんでしょう。ええ、そうです。急を要することなら起こして聞いてきますので。ええ、保護者として伺っておきたいんです。うちは両親ともに仕事で夜遅いことが多いので、実質上はわたしが美奈子の保護者代わりです。うちの美奈子が何かしでかしましたでしょうか? 違うんですか? ではどんな用件でしょうか。

「お姉ちゃん、それってすごく人が悪くない?」

 話を聞いて呆れた顔になる美奈子に、真由子は顔をしかめて見せる。

「ちょっとした意趣返しよ。高校の頃、桜井知明に電話かけるたびに、用件を根掘り葉掘り聞いてきて、全然取り次いでくれなかったお返し」

 美奈子は苦笑した。琴子のママは、琴子の周りに男子生徒を近づけなかったように、知明の周りの女子生徒をハエでも払うように追い払っていたらしかった。

「大人げないよ、お姉ちゃん。そんな昔のこと、根にもってるなんて」
「大人じゃないもの」
「保護者なんでしょ?」
「そうよ。あの人以前、息子にかかってきた電話の内容は、保護者として把握する必要があるって言ってたのよ。だからわたしもにわか保護者」

 とはいえ真由子がずっと美奈子の保護者代わりだったというのは、あながち間違いでもない。朝早く夜遅く日曜も休日もない母親の代わりに真由子は、ずいぶんこまごまと美奈子の面倒をみてくれた。それでも美奈子が小学生の頃でさえ、美奈子にかかってきた電話の用件を相手に問いただしたりしたことはなかったけれど。

「で、お姉ちゃんも、琴のママに用件根掘り葉掘り聞いたの? よくやるよ」
「用件っていうのがまた、夜にわざわざ電話で聞くほどのこともないだろうってくらい……わたしにはばかばかしいとしか思えなかったんだけど」

 真由子はそう前置きして、美奈子に訊ねた。

「きょうの昼間,琴子ちゃんに声をかけた男の子もしくは男の人がいなかったか、ですって。どう?」

 美奈子の返事を待たずに真由子は言葉をついだ。

「男の子が声をかけなかったかどうかって、共学だったら男子とだって会話するのが普通だし、なにズレたこと言ってんだか。娘に一切男と口をきいてほしくないなら、厳格なカソリック系の私立女子校へでも放りこめばいいのよ。あーばかばかしいったら」
「お姉ちゃん……」
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