GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
「あたりまえでしょ。もっともその程度の当てこすりが通じる相手とも思えないんだけどね」

 自分もまたカクテルを飲み干して、空になったタンブラーとマグを手にキッチンに回りこんだ真由子は、タンブラーをすすぐ手をふと止めて、独り言のようにつぶやいた。

「あの人もねえ、嘘つきは許さないだなんて、子供を追い詰めて自由をとりあげて、嘘でもつかなきゃやってられないようにしてるのが自分だって、いいかげん気づいてほしいもんだわ。それで息子との関係が決定的に壊れてしまったっていうのに同じことを娘に繰り返して、全く学習能力がないんだから」

 雨の降る金曜日、琴子のいない教室での1日を、美奈子は落ち着かない気分で過ごした。
 休憩時間は図書室で過ごし、昼食は誘ってくれるクラスのグループに入って一緒に食べた。
 昼食後、たまたま目の前をウロウロしていた柿崎直人をつかまえて、美奈子は聞いた。

「柿崎くん、ちょっと聞きたいんだけど、梅宮紀行とあなた、どういう関係?」
「へっ?」

 柿崎は細い目を精一杯見開いて、きょとんとした顔で美奈子を見返したが、それ、誰だよ、と言いかけて思い出したらしく、

「ああ、なんだ、それ兄貴のクラスメートだ」

 そう答えた。

「なんだじゃないわよ、夕べその梅宮紀行から電話がかかってきて、うちの番号どうして知ってるんだって聞いたら、学年名簿、あなたに借りて見たって」
「梅宮さんから菊本んちに電話があったのか?」

 柿崎は不思議そうに、そう問い返してきた。

「桜井じゃなくて、なんでまた菊本のところに?」
「桜井じゃなくてじゃなくて」

 美奈子は少し顔をしかめて見せながら、

「部外者に学年名簿見せちゃだめでしょ」
「んなのおれ、知らねーよ。兄貴が勝手に見せたんだろ。てゆーか、梅宮さんから桜井のこといろいろ聞かれたのって、もう半年ほど前になるし……」

 柿崎直人の説明によると、半年前の春の体育祭のときに、梅沢紀行はたまたま柿崎の兄と見学に来ていて、琴子に目をつけたのだという。
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