GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
 琴子が梅宮に会いに行ったということは、多分あり得ないだろうと美奈子は思った。第一彼がどこに住んでいるかなんて、琴子は知らないはずだ。

 琴子のママは、知っている相手だからとりあえず連絡してみると言って、電話を切った。

 居間のカーテンを開けると、西の雲は稜線ぎりぎりのあたりわずかに残して朱の色を失い、空は淡く暮れていくところだった。
 琴子が家に帰っていないという。行き先も告げず、一体どこに行ったのだろう。別に放浪癖のある子でもなかったし、こんなことは始めてだったから、琴子のママの心配は、そのまま美奈子の心配でもある。誰かに会いに行ったのかしらと琴子のママは言ったが、そうではない。多分琴子は、家に帰りづらくてどこかにいるのだ。そんな気がした。

 出かける旨を伝言ボードに短く書いて、戸締りをして外に出て、車庫から自転車を出していると、ちょうど真由子がスクーターで戻ってきた。

「こんな時間にどこにいくつもり? もう日が暮れかけているのに」
「琴子が行方不明なの。お家の人も捜しているんだけど、なんだか気になって落ち着かないから、わたしもその辺を捜してくる」

 美奈子の説明を聞いた真由子は、パンツの後ろポケットから携帯を出して、美奈子に渡してくれた。

「貸してあげる。何かあったら連絡ちょうだい。こちらからも連絡するから。それと、琴子ちゃんが見つからなくても、あんまり遅くならないうちに戻ってくるのよ」
「ありがと、お姉ちゃん」

 持つべきものは、理解のある姉だ。美奈子は感謝しつつ、真由子の携帯をポケットに収めた。

 家に戻りたくないとき、琴子はどこに行くだろう。どこに行こうと考えるだろう。学校? 図書館? 駅? コンビニ?
 考えをめぐらせながら、美奈子は自転車を走らせる。
 通学に使う私鉄の駅に向けて自転車をこぎながら、ふと思い立った美奈子は、小学校に向けて方向転換した。
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