10回目のキスの仕方
* * *

『あー何言ってんのかぜんっぜん聞こえねー。』

 憎たらしいあいつの声がして、余計に苛々してきた。

『玲菜、お前どこにいるんだよ?』
「家。」
『わかった。今行くから。』

 サッカーバカの暑苦しいあいつのこういうところに甘えている自覚は…ないとは言えない。サッカーのことしか頭にない人間だけれども、自分のピンチには必ず駆けつけてくれる幼馴染。

「…早く来いバカ。」

 独り言の後に、涙が零れた。バイト帰りは必死に涙を堪えたが、自分の部屋に入った瞬間にダメだった。圭介に彼女ができたことは母親から聞いた。その日も一人で泣いた。こんな風にあいつを頼らずに。それでも今日は何だか我慢できなかった。
 時間にしてわずか数分で、部屋のドアがノックされた。

「入るぞ。」
「どーぞ。」

 ぐすっと鼻を鳴らした。涙をこれ以上流すとバカにされそうな気がしたからだった。

「やっぱ泣いてるし。今度は何だよ。」

 今度はとは失礼な奴だと思ったが、すとんと横に座られても不快にならないくらいには信頼している相手であることは確かだ。それに、色々な面で見透かされている。

「…やっぱって何。」
「声が涙声。」
「そんなの、晃成(コウセイ)にわかるはずないし。」
「何年幼馴染やってると思ってんだ。わかんないはずがねーし。」
「うるさい。」
「お前が呼びつけたくせに…ったくかわいくねーな。」
「可愛くないから振られたんだし。」
「はぁ?」

 一気に怪訝な表情に変わった。しかし、納得したかのように数回頷いた後、くしゃっと髪を撫でられた。

「なんで俺が呼ばれたのかわかったわ。」
「…なんで。」
「言わねーけど。」
「意味、わかんないしっ…。」
「とりあえずやせ我慢とかどうせできねーんだから、泣いとけば?」

 そう言いながらもう一度くしゃっと音がした。その後も乱暴に頭を撫でられた。それに応じるようにボロボロと落ちていく涙に抵抗なんてできなかった。
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