10回目のキスの仕方
* * *

 圭介がバイトを終えて帰宅したのは夕方を過ぎた頃だった。玄関には白いビニール袋が掛けられていた。

(…松下さん、か。)

 少しは精神的にも身体的にも回復してくれたのだろうかと思う。袋を手に取って中を確認すると、綺麗に洗われたタッパーウェアとチョコの菓子が1袋と、メモ用紙が1枚入っていた。

― ― ― ― ―

浅井さんへ

貰ってばかりで申し訳なくて何かお返しをと思ったのですが、浅井さんのことを何も知らないので結局自分が気に入っているものを入れました。お口に合うといいのですが。
アロエヨーグルトとサラダ、とても美味しかったです。頭もすっきりしました。
本当にありがとうございました。

松下美海

― ― ― ― ―

「…律儀な人。」

 ガチャリとドアを開けて部屋に入り、ドアを閉めてからそう呟いた。このチョコ菓子を見たことはある。食べたことはないけれど。袋を開け、一つを口に放り込む。すぐに溶けはしないのがこの菓子のウリらしい。噛んで初めて味がした。

「そんなに甘くない。」

 バイトで疲れた体に丁度良い甘さだと圭介は思った。

「…美しい海、で美海。」

 図書館で出会った時もそうだった。おどおどしていて、顔を赤らめて、下ばかり見て。自信がなさそうな、そんな印象。でも、当然ながらそれだけが彼女を構成する要素ではないのだろうとも思う。

「ひとまず、美味しい。」

 普段甘いものはほとんど口にしないのに、気が付けば袋は空っぽになっていた。

「ご馳走様。」


* * *

(…浅井さん、もう帰ってきてるかな?…でも、覗きに行くのも変だし、ばったり会ったらそれこそ恥ずかしすぎて合わせる顔が余計になくなる…!)
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