10回目のキスの仕方
 初めて知る、圭介の唇の味。それは、まるで媚薬のようにじんわりと熱をもって体中に広がっていく。唇が離れて暗闇の中で視線が絡み合えば、少し上がった呼吸が交じり合う。

「…意外と、越えられた。ハードル。」
「ハードル…ですか…?」
「もっと美海がびびるんじゃないかって思ってた。」
「…び、びらないですよ…。」
「うん。震えてもないし。むしろ震えてんのは俺。」

 そっと頬に触れた圭介の手が小刻みに震えていた。

「…圭介くん。」
「ん?」

 色々と、気をつかわせてしまったのだということを何となく感じる。それは多分、いつだってそうだった。いつも自分を気にかけて傷付けないように、大切にしようとしてくれる。その気持ちがとても嬉しくて、温かくて、だからこそそれに相応しい気持ちをきちんと届けたいと思える。

「嫌じゃないです、よ。だって相手が圭介くんです。」

 頬に手を伸ばしたのは美海の方だった。背の高い圭介の頬に手を伸ばし、そっと触れた。

「ファーストキスが知らない…怖い男の人だったら嫌ですけど、圭介くんだから嫌じゃありません。むしろ…私はとっても幸せ者だと思います。これ以上ないってくらい…大事にされてるってちゃんとわかる…から…。」

 暗闇の中に見える圭介の口が、優しく微笑んだのが見えた。

「っはぁ…なにその…こっちの気も知らないで…。」
「え…あ、あの…怒って…。」
「ません。こんなんなら、もっと早くキスして良かったわけだ。」
「っ…そ、そんなことはない…ですけど…。」
「だって嫌じゃなかったわけだろ?ハードル高いって思ってたの、俺だけか。」
「わ、私にとってもハードル高いですよ!無理です!」
「無理って何が。自分からがってこと?」

 美海は黙って頷いた。自分からキスをするなんて、自分には到底無理な気がする。

「…美海からが無理でも、俺からいく分には拒否しないってことで…いいの?」

 急に攻めた質問になり、赤くなったのは美海の方だった。拒否は…多分しない。でも、それを今ここで肯定することは恥ずかしい。

「拒否、するの?」

 落ちたトーンに、反射のように首を横に振った。

「それだけ分かれば十分。ハードルはぐっと下がったよ。」

 ポンと頭の上に乗った手がくしゃっと美海の髪を撫でた。
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