10回目のキスの仕方
* * *

「もしもし。」
『もしもーし、洋一、どうしたの?』

 電話先の声は底抜けに明るくて、緊張して震えたのが馬鹿みたいだ。

「別に、…急ぎの用ってわけじゃねーんだけど。」
『うん?』
「…24日、暇?」
『24日は…午前中から昼過ぎまでバイトだけど、それ終わったら時間空いてる。』
「じゃあ、買い物付き合ってくんね?」
『うん。いいけど、でも24日いいの?』
「いいのって何が。」
『彼女的な子とかいないわけ?』

 さすがにこのお節介にはぐさっときた。メンタルは強い方であるという自負はあったはずだ。幼少期から姉と兄に鍛えられてきたし、姉のせいで女に夢など見ていない。しかし本当に自分が眼中外であるということをまざまざと見せつけられると苦しい。わかってはいたし、心の準備はできていたはずなのに。

「いないって前にも言ったけど。」

 少しきつい言い方になってしまった。さすがに許してほしい。

『前は、でしょ。今は今で常に変わるものでしょ。』
「とりあえず当面はない。」
『はいはい。じゃーそういうことにしといてあげる。』
「…なんでお前はそんなに俺を信じてねぇんだよ、ったく…。」
『そういう性分だと思って。』
「信じてほしいんだけど、一応は。」
『他の人よりは信じてる方だと思うんだけど。多分。っていうか怒ってる?声が怖い。』

 怒らせてるのはどこのどいつだよと盛大にツッコミを入れたくなるが、それはぐっと堪えた。ただ、本当のことを言っておこうとは思う。

「お前のせいだよ。」
『はぁー!?いきなり怒り出したくせにあたしのせいとか意味不明なんだけど!』
「一連の会話を思い出せ。」
『ますます意味がわかんないんですけどー!』
「とにかく24日、夕方…5時!駅前集合。」
『わかりましたー!』

 ぶちっと切れた電話。24日、勝負の日になることは間違いない。
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