10回目のキスの仕方
* * *

 風呂を出た先に待ち構えていたのは、美海の母だった。

「っ…!お、お風呂、ありがとうございました。」

 両手にビールの缶を持ち、スウェット姿というラフな格好でのお出迎えに少し慄いた。

「ちょーっと飲まない?」
「え?」
「というか今いいところだから圭介くんをリビングに行かせたくないの。」
「いいところ?」
「美海ちゃんとお父さん、ちゃんと話してるから。」

 それは自分が心の底から願っていたことだった。その邪魔をする気は毛頭ない。

「それじゃ俺は部屋に…。」
「ちょっと待って!」
「え?」
「せっかく空人もすぐ寝てくれたし、私は少し圭介くんと話がしたいのよ。美海ちゃんもお父さんも抜きで、ね?」

 唐突な展開に口を開けないでいると、少し意地悪く笑った美海の母が口を開いた。

「あら?人妻にこんなこと言われてどきっとしちゃった?」
「…それ、冗談で言ってますね。」
「あはは、ごめんね。圭介くんが真面目なの、ちゃんとわかってるわよ。圭介くんがどれだけ美海ちゃんを大事にしているかも、ね。」

 促されるままに入ったのは和室だった。ゴトンとビールの缶を置かれ、プシュッと缶を開けてごくごく飲む美海の母を前に、飲む以外の選択肢を失った。圭介もビールの缶を開けて少し喉を潤した。

「今回、ありがとう。」
「…どうして礼を?」
「お父さん、圭介くんから電話をもらってとても嬉しそうにしてたから。」
「…全部、自分がしたくてしたことなんです。…だから、お礼を言われるには値しないというか…。」
「自分がしたことの先に、自分の大切な人の笑顔が待ってるって…すごく素敵なことじゃない?」
「…どういう、意味ですか?」
「明日の美海ちゃんの顔は、多分今まで見る中で一番可愛い顔って意味。」
「…それは、そうかもしれませんね。」
「はぁー…そこで否定しないところが若さ~!でも、久しぶりに見たけど、高校のときとは比べ物にならないくらい可愛くなっちゃって、美海ちゃん!」
「そうなんですか?」
「顔立ちは元々整っていたのよ。でもどこか暗いというか、笑顔が嘘くさいというか。…まぁ、全然信用されてなくて、そんな顔させてたのは私なんだけど。」

 少し自嘲気味にそう言った彼女に、圭介は首を横に振った。
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