レオニスの泪
言わなくてはならない事や、訊きたいことは沢山あるのに。

頭が真っ白になってしまって、何も口に上らない。


神成は、ただ単に通過点として、ここに居るだけのようだ。

だったらいっそのこと、そのまま知らないフリをして帰ってくれればよかったのに、と思うが、彼がそういう人間ではないことを、なんとなく理解していた。




ーあ、そうだ。御礼!!



ぐるぐるした意識の中、やっとそのワードを見つけ出した私は、咄嗟に。



「あのっ…ありがとうございました!!!」



お礼の言葉を述べて、頭を下げた。


が。



「…祈さん、、少しボリューム下げた方が、良いね?」


神成は、困ったような笑顔で、首を傾げる。


「は、す、すいません…」



ーそ、そうだった!



この公園の周囲は、県営住宅に囲まれている。

近所迷惑この上ない。


いつもなら、配慮する余裕があるのに、今はそれが難しくなっている。


つまり、かなり動揺している。

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