レオニスの泪

両親からしてみれば、そんなつもりはなかったのかもしれない。

でも、私にはわからなかった。

愛されてる、なんて感じたことはなかった。
多分、何もかもが当たり前で。
その中での繋がりなんて気付かなくて。
遠くから見守るという愛の形も知らずに。
すぐ側で、直接愛を注いで欲しいと願っていた。

家族の枠が窮屈に感じて、外の世界へ出て行きたくて、親に隠れて高校近くの書店でアルバイトをした。

本も好きだったし、働く事は、嫌いじゃない。

すぐに仕事も覚えて、楽しかった。

大人の仲間入りをして、まるで一人で生きていけるような気がしていた。


そして、一年経った頃。


「すみません。欲しい本の取り扱いがあるか訊きたいんですけど。」


屈み込んで本の陳列をしていた私が顔を上げると、学生らしき男性が立っていた。

ハーフのような顔立ちで、短髪で黒髪。



ー顔が完全に左右対称だ。


束の間、そんな事が頭を過ぎり、困惑している表情の相手に気付いてはっと我に帰る。



「…あ、っとはい!今お伺いします!っとと」


慌てて立ち上がったせいで、よろけた所。


「大丈夫ですか。」



大きな手で、肩を支えてもらう結果となり、恥ずかしい思いをした。
< 202 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop