レオニスの泪



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「お前、精神科選択したって本当か?」



初期臨床研修を終える頃。

僕は地域医療の研修で世話になった先生の病院に、報告がてら会いにきていた。



「はい」


小さな病院だったし、辺鄙な場所にあったが、近隣の住人からすれば唯一の医療機関だった。過疎化でほとんど人がおらず、年配者が人口の多くを占める。


金儲けを目的としているなら、さっさとこんな所から出て行くのが最善策だが、戊亥先生は、この場所に骨を埋める覚悟だそうだ。


例え消えゆく命だとしても、《自然の摂理》にいずれ追い付かれてしまうのが分かっていても、僅かな時間でも、逃れようとする人の手助けをする。


戊亥先生は、そんな考え方の持ち主だった。



「なんで。お前、外科とか行けばいいのに。そっちの方がその腕と頭生かせるんじゃねぇの。」


ガラガラの待合室。

暇な診察室。

年配者は朝が早く、混むのは早朝で、午後は大体訪問医療だ。


その合間を狙って行った僕は、診察室の入り口の前に立っていて、戊亥先生は椅子に座って、窓から吹く風に当たっている。


スキンヘッドが光り、横顔の戊亥先生は、外見に似合わず、言いづらいことがあるとこうして顔を合わせない。
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