レオニスの泪








「こないださぁ、森さんに葉山さんどう?!って勧めたら『子持ちは勘弁ですよ~』って言って断られたわよぉ。」




シチューをかき混ぜる手が、一瞬ピタリと止まった。




「………はは…」





決して人柄が悪い訳ではない50手前のおばさん相手に、頬が引き攣るのを感じながら愛想笑いを返す。



なべ底にくっついてしまう、と直ぐに頭を切り替え、作業を再開するが。




「笹田さん!早くサラダ出して!」



「っと、いっけなーい、行ってくるねー」




調理場内に響いた指示に、全然慌てない様子で笹田が身を翻した途端。



―つーか、こっちだって願い下げたっつーの!



眉間に皺を寄せて目の前の茶色いシチューを見つめた。




―森って、よくここに食べに来る、あの製薬会社の男でしょ。



脳裏に、いつも猫背で浅黒く、ぼてっとした森の姿が浮かぶ。



常に彼女募集中を掲げ、誰か可愛い子紹介してと周囲に頼み込んでいる。




―選ぶ権利は私にだってあるっつーの。




あんな不細工な男、と。


優位に考えようと思いながらも。




『子持ちは勘弁』




自分の女としての価値が無くなったと言われた様で、やけに傷付いた。



でも、気付かないフリをした。

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