金魚の群れ

5

小さく笑うと、ベンチの空いたスペースを指さしながら私に座るように促した。
ゆっくりと腰を下ろせば、手を届くところに好きな人がいる。
今までにないその距離に、夢ではないかと思えてしまう。

「俺ね、気になる人がいたんだ」

気になる人。

「って言っても、話をしたこともないし、挨拶をするぐらいの人だった、最初にあった時からなんとなく気になって、なんでかなぁってずっと思っていた。」

私も、あなたのことそう思っていました。でも、あなたには、ほかにそう思う人がいたんですね。

そんなことを思いながらも、小さく相槌を打つ。

「ある日、その人がプ…。」
「プ?」

急に続かなくなった言葉の先を促そうと、最後に言った言葉を復唱すれば、顔をほんのりと染めた辻堂さんと目があった。

「いや、小さな贈り物をくれたんだ」
「贈り物」
「そん時、本当にしんどくってさ、仕事のミスも重なってたし、体調もそのせいか悪くてね」
「はい」
「ほんと、小さな贈り物だったけどうれしくって、それから余計にその人のことが気になった」

辻堂さんが話すことすべてが胸に刺さる。
人に聞くよりも、もっと痛い。
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