僕は悪にでもなる
それから俺は、仕事を見つけて新たなるスタートをきった。
田舎でうずいていた命も今は充実している。
雪美も直樹と同じ店で働いていた。
二人は夜仕事だから次第に、俺が空美の面倒を見るようになった。
厳しくつらい仕事を終えても、美しく光る瞳に照らされる毎日。

次第にその光る瞳に映る自分に自信が持ててきた。
喜びと達成感を感じる毎日。

俺は、これだけでよかった。
おもちゃであそんだり、一緒に映画を見たり、おしゃべりをしたり
一緒に寝る毎日。

自分のアパートに帰るのは雪美の休みと直樹の休み
週に2回ほどになった。

毎日過ごすたびに空美への純粋な愛が膨らんでいった。

直樹と雪美の休みがかぶった日には、4人でピクニックに行ったり
遊園地に行ったりもした。

直樹が空美を見る目は輝かしくわが子のように優しい。

3人の愛をはたからでもいいからずっと触っていたい。

それだけでよかった。
それだけで毎日が輝いていた。

直樹から何度も女の紹介を受けたが
これ以上のものは、いらない。
それにまだ直樹が雪美を愛するほどに自分に自信がない。
今はまだ、深い愛に出会っても
また気づ付けてしまいそうで不安はまだまだ消えない。
もっとこの愛に触れ、もっと東京で生きて
少しずつ自分を浄化したい。
そして自分も大きな愛に巡り合いたい。
でも今はまだいらない。
そう思っていた。
何度もしつこく紹介をしてくる直樹。
何度か紹介を受けて食事に行った。
適当に言葉を交わし、丁重に断り続けた。
気がつかない内に
今ある愛以上の愛に出会い、膨らまぬように気を付けていた。

そんな日々を長く送った。

今日は、直樹の休みの日。
仕事を終えて、かずみさんの元へむかった。

かずみさんは、小さなスナックをしていた。

ネオンをかき分けてかずみさんの店にむかう。

これまで週に1度必ず日々の報告をこまめにしていた。
今日も変わりない姿を見せようと心躍らせながら歩く。
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