掠れた声で囁いて




 ——なにこれ。


 強烈な感覚に支配されて、とてもじゃないが立ってられない。

 甘く低い声は耳から浸透して脳髄を甘くと溶かしていく。それはまるで毒のようで、だけども手を伸ばさずにはいられない。
 今にも崩れ落ちそうな膝を叱咤して、必死に吊革にすがりつく姿は自分ながら情けなく思う。


「いっいえ……」


 若干渋みのある面影に、軽く後ろに流された前髪目元は深みがあって、笑うと切れ長だった目が僅かに垂れる。全て全てがどストライクだった。胸がドキドキと高鳴る。

 心臓ってこんなに暴れるものだったっけ?






 飯嶋絢菜18歳——生まれて初めての一目惚れ(一聴惚れ?)のお相手は、子連れリーマンでした。






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