キミが教えてくれたこと
どこかで誰かに支えられているということ


「譲二ー!サッカーするぞ!お前も来いよ!」


「ちょっと待って!茉莉花、また後でね」


『いってらっしゃい』


「怪我しないようにねー」

クラスの男子と仲よさそうに教室を出て行く譲二を見ながら、茉莉花と百合は笑って見送った


「この前までの一匹狼が嘘みたいだね」

ふふふっと二人で笑い合う


あの一件をきっかけに譲二は両親へ気持ちを打ち明けたそうだ

二人は最初かなり驚いていたものの、譲二の気持ちを理解し一緒に頑張ろうと言ってくれたと嬉しそうに報告してくれた

今までのわだかまりが吹っ切れたようで譲二は明るくなり、誰とでも分け隔てなく接することで今はクラスメイトから引っ張りだこだ


「やっぱり茉莉花ちゃんはすごいなー」

『え?』


百合は頬杖をつきながら茉莉花を見る


「茉莉花ちゃんのお陰で、私も譲二君も世界が広がったんだもん」


感謝してもしきれないよーと、ニコニコ言う百合

彼女はいつも素直で思ったことをすぐ相手に伝えてくれる


『私も、百合や譲二に救われてるよ。だからお互い様』

二人でえへへーと笑いながらほのぼのしていると視線の先にハルトがいた


『………』


最近のハルトは会話に入ってこず、外を見ていることが多くなった

そんな些細なことが茉莉花の不安を煽ることとなる

だが、茉莉花は何も言わずそんなハルトを見ているしかなかった




『今日ね、百合がまたコスプレ衣装を作ったって見せてくれたんだー。細やかな所までこだわってて、やっぱり凄いなーって…』

キッチンで料理をしながらハルトに話しかけたがハルトからの返答は無く、手を止めて見てみるとまたハルトはベランダから空を見ていた


『ハルト…?』

「ん?ああ…ごめん、ボーっとしてたわ」

いつものように笑っているが、少しぎこちなく感じた

『…ハルト、何かあったの…?』



「え…?あ、いっ…てっ…!」


『ハルト!!!』


急に頭を抱え悲痛な声を上げるハルトに全てを放棄してキッチンから走って側に寄った


『ハルト!どこか痛いの!?どうしようっ…どうしたら…っ』


普通であれば救急車を呼んだり、病院に行ったりと選択肢があるが彼は実体のない存在で何も出来ない歯がゆさで目を潤ませた


「っ大丈夫、大丈夫だから…」

茉莉花を安心させようと無理に笑うハルトに胸が締め付けられる


『私…そんなに頼りない?私だって…ハルトを支えたいよ…』

視界が歪んでハルトが見えない


「マジで、大丈夫だから…。茉莉花は、俺の側で笑ってくれてたらそれでいいから」


な?と優しく促す彼に何も言うことが出来なかった


それから何事も無かったように振る舞うハルトに茉莉花もそれ以上追求できなかった



その夜、寝静まった茉莉花の横にハルトは腰を下ろした

茉莉花の目にはうっすらと涙が流れている


「茉莉花…」


頭を撫でようとした右手が一瞬透けてしまった

「!…っ頼む…もう少し…もう少しだけ時間をくれっ…」


頼むからっ…とハルトは自分の右腕を左手で掴みながら懇願した

ハルトの声は虚しくも夜の静けさに溶けていく




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