アロマティック

前進するために

 ドアの前に立ち尽くしたみのりは、ドアノブを見つめていた。
 こういうときに限って廊下は静かで人気もなく、まるでひとりこの場に取り残されたような感覚に陥る。心細さが、いっそう心を不安にさせている。
 でも、わたしは前に進むためにここにいるのだ。みのりは自分に言って聞かす。
 このドア1枚隔てた向こうには永遠がいる。
 わかっているのに。いま一歩踏み出せない。
 このドアの向こうで、永遠はどんな様子でいるんだろう?
 まだ物凄く怒ってるのかな。
 一方的に怒られて、また口論になるのは嫌だった。
 わたしが望むのは、気取りのない自然な関係。
 先ほどの永遠とのやり取りを思い返して驚くのは、永遠の怒った姿。
 しかもその矛先が、わたしだったわけで。

 俺のために自分を犠牲にするな!

 永遠の言葉が甦る。
 男の人にあんなこといわれたの、はじめてだ……。

 いままでは好きな人との関係を守るために、自分を盾にしてきた。
 それが当たり前だと思っていたし、以前恋人だった彼も、黙ってそれを受け入れていたのだから、同じ考えだったんだろう。
 一方永遠は、彼ではないけれど、仕事の相手であると共に、大切なひとだ。
 特別な関係でもないわたしを、怒ってまで心配してくれる永遠は、とても優しいひとなんだと思う。
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