アロマティック
 反応を楽しんでいるのか、含み笑いをしながらみのりの通ったドアを閉め、彼女を椅子に誘う。みのりが座るのを確かめた永遠が、他の椅子を引き寄せ、向き合うように座った。
 みのりはふたりきりの室内を見渡した。楽屋の中は、先ほど出ていったときとほとんど変わりのない状態で、テーブルも椅子も、きちんと整理されている。片付けたのか、暴れたわりに散らかっている様子はなかった。
 窓から射し込む明るい陽射しが、室内を暖かく包む。永遠の澄んだ眼差しがずっとみのりを見ていた。みのりは戸惑い、言葉を探す。

「……怒ってないの?」

「怒ってないよ」

「……本当に?」

「正直、さっきまではイラついてた。でも」

 そこで永遠がテーブルを指さす。

「スマホ?」

 指の先を追ったみのりに、永遠は頷く。

「メンバーの皆から、いい加減にしないと一発づつ殴るぞって脅迫メールきて、やばいフルボッコされるって」

「脅迫メール?」

「まぁフルボッコっていうのは誇張しすぎだけど」

「永遠くんの怒りを冷ますメール、どんな内容だったの?」

「皆、俺らのことを考えてくれてるってことかな」

 そう答えなからも、永遠はメールの内容を思い返していた。
< 140 / 318 >

この作品をシェア

pagetop