アロマティック

体は正直なもので

 みのりは、ゆっくりと近づいてくる永遠から、目が離せないでいた。

 まただ。
 ふたりを取り巻く空気が変わったと思ったら、永遠はなにかを求めるような視線でわたしを見ている。

 腰を跨ぎ、顔の両側に付いた手で体重を支え、みのりの上に覆い被さる大きな影。
 永遠の熱さが伝わるほどに体は近く、熱を帯びた瞳はまぶたに隠れて……僅かに開いた唇が近づいてきた。

 もう、わからない振りはできない。
 永遠は、キスをしようとしている。

 ふたりきりの静かな室内。邪魔する者は誰もいない。
 うるさいくらいドキドキと胸を打つ心臓の音だけが、耳の奥に響いていた。
 みのりはまばたきも忘れ、息を殺して永遠を見つめることしかできなかった。
 近づいてくる端正な顔。息が顔に掛かるほど接近した永遠の柔らかな前髪が、額に触れた。

 もう、なにも考えられない―――。

 みのりは、そっとまぶたを閉じた。

「………」

「………」

「あっ! 永遠ちゃんとみのりちゃんがやってるー!」

 突然、割って入った声に、ふたりの動きが止まる。唇が触れるすれすれのところで、閉じていたお互いの目がパッと開いた。

「皆、待って。いまここ、立ち入り禁止だから!」

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