アロマティック

爪痕

 いつもより静かに仕事へ行く仕度をして、テーブルにそっと鍵を置き、みのりはテーブルの横をのぞきこんだ。
 そこにはベッドとテーブルの間の狭いスペースにごろ寝している永遠の姿。体を横に向け、下側の肘は曲げて枕がわりのクッションのしたに隠れている。引き締まった長い両足は少しだけくの字に曲げ眠っていた。
 カーテンから射し込む朝日に照らされた寝顔にしばし見とれる。少し乱れた前髪。いつも帰りの暗い車内で見る寝顔とは違って、顔の輪郭からシャープな弧を描く眉、すっきりした鼻筋、閉じられた瞼、魅力的な唇がはっきり見える。
 なんて綺麗なんだろう。
 永遠の頭の横に座り込み、思わず魅入った。
 男の人の寝顔だけど、永遠の寝顔は綺麗という言葉がピッタリくる。まるで、西洋の美しい男性の彫刻みたい。
 起こさないようにそっと頬に指を滑らせる。

 昨日は、帰るつもりの永遠くんを呼び止めて、結局泊まってもらった。
 あのあと、特別なにかあったわけでもないけど、わたしの小さいベッドにふたり並んでは眠れないからと、ベッド横のジュータンに文句も言わずごろ寝してくれたのだ。
 永遠がいてくれたおかげで、不安もなく眠れた。
 でも、永遠は堅い床の上で寝て、ちゃんと眠れただろうか?
 起きたときに体が痛くないといいけど。
 時計を確認すると、そろそろ出なくちゃいけない時間だ。
 立ち上がろうとしたみのりは、優しく引っ張られて引き戻される。
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