アロマティック
 ぶつぶつ文句を言う天音に、みのりは最後のペットボトルを渡しながら、

「Earthである前に、そこらへんにいるひとと変わらない普通の男でしょ。はい、ケチ臭いこといってないで協力する!」

 天音の体に入っていた変な力が抜けていく。己のなかに自然と溢れてくる暖かな気持ちに、戸惑いつつ苦笑した。
 Earthが国民的アイドルとしてトップに立ってから数年。Earthの機嫌を損ねてはいけないと、腫れ物に触れるような扱いを受けたことも少なくない。自分もそんな扱いに慣れていた部分もある。
 取り入ろうと低姿勢で近づいてくる者もいれば、欲望を隠し近づいてくる者もいる。
 人間は汚ない。
 私利私欲のために、相手の感情などかえりみず、利用しようと考える輩もいる。
 だからこそ、メンバーに近づくものには容赦しない。
 相手が隠した牙を向くのなら、その牙を受けるのはぼく一人で充分だ。

 みのりの過去には暗い闇が嗅ぎとれる。
 ただ、それがなんなのか。話すことを拒んでいる以上、いまはまだ無理に聞き出す必要はない。
 みのり自身に裏はなさそうだ。軽い気持ちでいるわけでも、永遠に取り入ろうともしていない。
 いままで接してきた者たちとは違う。みのりはごく普通に、ごく自然に振る舞う。相手が誰であろうと分け隔てなく。

「……わかったよ。持てばいいんでしょ」

 天音は諦めた口調でいいながらも、ペットボトル5本分、ちゃんと持った。
 なんだかんだいいながらも、優しいんじゃない。その不器用な優しさにみのりは苦笑した。
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