こうべ物語



(今日も点いているよね…。)



2階から見える斜向かいの勝利の部屋。


部屋の明かりを確認すると、さくらはフッと1つ息を吐いた。


肘を痛めてから、勝利は部活に顔を出していない。


日課にしていた夜の公園での素振りも行っていない。


顔を合わせても、どのように接すればいいのか分からないまま月日だけが流れていた。


有馬温泉で再会した麻里奈からの言葉。



『でも、必死になる事が彼の為になるのかしら?』



『そっとしてもらいたい時もあるって事よ。』



六甲山牧場で再会した涼子からの言葉。



『さくらちゃんのような恵まれた人には私の気持ちなんて分からないのよ!』



『家族でこうして遊びに来たり出来て。私は1人、誰も周りにいない。』



(私は…。)


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