こうべ物語
「勝利!何やってるんだ!」
炎天下のグラウンド。
野太い声が響き渡る。
「はい!すみません!」
「もう1丁!」
大石勝利(おおいししょうり)は、中学3年生。
高校受験も始まろうかという暑い暑い夏。
ただひたすらに野球ボールを追いかけていた。
(勝利、頑張って。)
中学校のグラウンドの片隅で、野球部を見つめる塩屋(しおや)さくら、中学3年生。
神戸市北区藤原台。
六甲山の裏側、神戸市の中心街へのベッドタウンとして開拓された新興住宅地。
オレンジと白の車両、神戸電鉄がのんびりと走り、穏やかさを運んでくる。
一軒家が建ち並び、緑や公園も多い爽やかなこの街で勝利もさくらも生まれ育った。