どうしてもママ、子供のまま。


「え!何気うまいじゃない!上手よ。とってもおいしいっ」


『本当ですか!?』


「うん、ほんと」





私の隣で、コトコト音を立てて煮出つのは、カボチャ。
そして今、このみさんの口に入っているのは、ひじきのお煮付け。


今日は、【かぼちゃの煮物】と、【ひじきのお煮付け】の二つを教えてもらっていた。






『私、ずっと今日を楽しみにしてたんです』


「え?こんなユルユルなお料理講座なんかを?」


『いや…それもですけど…、このみさんの家、どんなのかなーって』


「あらやだ!期待してたのと違った?」


『いえ、予想を超えてとっても綺麗です!』


「やだ…ありがとう朱美ちゃ……って、朱美ちゃん!カボチャが!」


『え…って、あぁ!』





ほのぼの話していると、私の隣のかぼちゃを煮ていた鍋が、焦げ臭を出して煮えていた。

慌てて火をとめて、お鍋の中を確認する。



「あちゃあ…」

覗き込んできたこのみさんが、ため息混じりにつぶやいた。



『…焦げちゃってる……』



見ての通り、表面は黒く焦げ、かぼちゃの身の部分は、ほぼドロドロに溶けていた。


あはは、と微笑する私たち。



栄養士のこのみさんのプライドに、きっと大きく傷がついたことだろう。
ごめんなさい。








「んじゃあ、食べましょっか?」

『食べれますか?これ』

「たっ…食べれるわよ、それに、ひじきの方は成功したじゃない」



エプロンを外して、ふたりでリビングに料理を並べる。
ひじきのお煮付けはとってもおいしそうなのに…かぼちゃは原型をとどめていない。



……あーぁ。







重い気持ちで、席に着く。
あとから座ったこのみさんが、明るく号令をかけた。




「手を合わせてぇー」

『…』

「いただきます!」

『…いた…ます』



こんな料理を、いただきますなんて思う意欲や敬意は私にはない。
このみさんは、正しく持った箸で、黒焦げになったかぼちゃに手を伸ばした。


え?たべるの?





私は目を見開いて観察する。
このみさんはそんなの御構いなしに、口角をあげたままかぼちゃを口に吸い込ませた。

その口角は、かぼちゃを口に入れた後でも下がることはなく。

リビングに、このみさんの明るい声が響いた。




「わ!何気いける!砂糖を多めにしちゃったのがアレだったわね。でも、お菓子感覚で美味しいわ」


目まで細めて、笑いながら食レポをしてくれたこのみさん。



「ほら、朱美ちゃんも食べてみな?」




私の分をお皿に分けて、私の目の前にかぼちゃを添えてくれた。






私は箸をもって、かぼちゃに箸をつける。
恐る恐る、、私はかぼちゃを口に入れた。





『ん……あれ?美味しい…』


「そうよね!イケるイケる」






あれ…私、意外と料理上手いかも!!

盛り上がるはずの食事も、私の勢いであまりにも会話は成立せず。

かぼちゃはすぐに売り切れた。

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