どうしてもママ、子供のまま。


すると。


また、急いだ足音が、遠くの暗い道からバタバタと聞こえてきた。
それも、さっきの痴漢が居なくなっていった道路の方からだ。


……また戻ってきたの?






私の頭は、次は何されちゃうの、という絶望とパニックでいっぱい。
隠れなきゃ。隠れなきゃ。

隠れようと思って辺りを見回すも、あるのはブロック塀が連なっている。
どこにも身を覆えるような場所は見当たらなかった。



足音は、徐々に近くなる。











ーーーーーーーーーバタバタバタッ。


( 嫌!…… )






私は両手で頭を覆った。…こんなのただの無力ってこと分かってるけど。
足音は、私の近くでピタリと止んだ。
切れる息が、ゼーハーと音を立てて呼吸をしている。








「朱美か…?」



……え。
この声って………









『佑…?』

私は頭を上げて、瞬きできないくらい大きく目を見開いた。


目の前にいるのは、こんな寒い中汗だくになって息を切らした、佑だったんだから。
片手には、さっきまで私と電話していたであろう携帯が握られていた。






『ゆっ……佑…うわぁあんっ』




佑…探してくれたの?
なんで私を探してくれたの?
佑…なんでここって分かったの?


言いたいことはいっぱいあったのに、流れる涙は後を知らない。
さっきまでコントロールの聞いていた泣き声も、今じゃブレーキきかなくて。

そっと寄ってきた大好きな彼のかおり。

肩に寄り添うように、私は泣いた。
いつもの嗅ぎ覚えのある柔軟剤の匂いが、なんとなく口から入ってくる。

佑の肩は、佑の汗か、私の涙かもう訳が分からなくなっていた。






『佑…っ、…わたし……』



過呼吸になるのを、必死に耐える。なんとしてでも、私、さっきの言葉、撤回しなきゃ。


懸命に話す呼吸をとめたのは、紛れもなくだいすきな佑の声だった。





「いいから。もう無理して話すな」








その声に吸い込まれるように、私は眠りについた。










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